一般的に知的障害中度の方は適切な教育や支援があれば、就労も含めた社会生活も可能といわれています。
しかし、知的障害はIQだけでなく併存疾患によって対応が異なるので、併存疾患についての知識も支援には必要です。
今回は「知的障害中度の方のIQと知的障害に併発しやすい疾患」について解説します。
※最近の診断基準で知的障害は「知的能力障害」という診断名に変わりました。
現在も知的障害が一般的に用いられている為、この記事では「知的障害」という表現を使用します。
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知的障害の定義
知的障害とは、「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」と厚生労働省は定義しています。
調査の結果|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
知的機能とは読み書き・計算・物事を判断することなどに必要な能力で、IQによって測定されています。
日常生活の支障の具体例としては、年齢に応じた行動やコミュニケーションが難しい、計画を立てたり優先順位を付けられない、身の回りの自立に時間がかかるなどが挙げられます。
知的障害の原因は先天性や後天的な病因など多岐に渡るため、原因が特定できないことも多いです。
知的障害中度のIQは35~50
知的障害中度のIQは35~50で、読み書きや計算などは小学生レベルにとどまります。
簡単なコミュニケーションは可能ですが、暗黙の了解や空気を読むことは苦手な方が多いです。
複雑な物事の判断や意思決定は難しいので常時支援が必要です。
時間をかけて適切な指導・支援を受ければ、家事や身の回りのことは自分でできる場合もあります。
適切な支援が受けられる場所であれば、就労も可能なケースもあります。
知的障害と併発しやすい疾患
知的障害は脳の疾患・精神疾患を併発することが多いです。
代表的な併発しやすい疾患について解説していきます。
発達障害(ADHD、ASD)
発達障害とは個別の疾患ではなく、複数の障害をまとめた大きな概念です。
複数の障害や症状を併せ持つ場合が多いです。
知的障害と最も多く併存するのが自閉スペクトラム症(ASD)で、注意欠陥多動性障害(ADHD)を併存する場合もあります。
(1)自閉スペクトラム症(ASD)
自閉症とも呼ばれています。具体的な特徴は以下の通りです。
- 3歳以前に発症、男性に多い
- コミュニケーションの障害
- 無意味な独り言やオウム返しなど
- 身体感覚の異常
- 聴覚過敏、自分の疲労感が分からず突然倒れてしまうなど
- パターン化した行動やこだわり
- 特定の事物に対して異常な執着を示すなど
- 同年代の子どもに興味を示さない
- 話している時に目線が合わない
(2)注意欠陥多動性障害(ADHD)
「不注意」「多動性」「衝動性」が特徴の障害です。
不注意とは、集中力が続かず注意力が散漫なこと
約束を忘れてしまったり、相手の話を集中して聞いていられないといった様子がみられます。
一方で自分の興味を持った特定の事柄に、寝食を忘れるくらい集中することがあります(過集中といいます)
多動性とは、落ち着きがなく行動をコントロールできない
じっとしているのが苦手、授業中の離席、そわそわして落ち着かないといった症状が特徴です。
衝動性とは、先のことを考えず自分に害があるかもしれなくても性急に行動すること
車が来るのを確認せずに急に飛び出す、思い通りにならないと感情を爆発させ大声を出す・暴力的になるといった様子がみられます。
発達障害は生まれ持ったもの、あるいは生後早期に生じる脳機能の障害です。育て方や親の愛情不足が原因で生じるものではありません。
発達障害の治療は薬剤も使用されますが、発達障害の特性を理解し、安心して社会生活を送れるような支援を行うことが重要になります。
脳性麻痺
脳性麻痺とは生後4週間までの間に脳の損傷によって脳機能が障害され、運動と姿勢に異常をきたし、将来にわたって症状が続くものをいいます。
どのような症状が現れるかは損傷した部位によって異なります。
根治治療はなく、症状の軽減の為にリハビリテーションや薬物療法、手術等が行われる場合があります。
てんかん
てんかんとは、様々な原因により大脳皮質神経細胞の異常興奮をきたすことで、発作を繰り返す病気です。
発作の種類は大脳の異常興奮をきたす部位によって様々です。
てんかんの原因は、生まれた時の仮死状態・脳の先天奇形・脳外傷など脳の障害が原因で起こるもの(症候性てんかん)もありますが、原因不明なものも多いです。
治療は薬物療法が行われます。
知的障害の程度が重いほど、てんかんを併存するケースが多くなります。
うつ病
気分障害の一種です。抑うつ気分や意欲低下などの心の不調と、不眠や食欲不振などの身体の不調によって日常生活に大きく支障が出る状態をいいます。
感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じる+ストレス+うつ病になりやすい体質が原因で発症すると言われていますが、正確にはわかっていません。
知的障害の場合、抑うつなどの不調をうまく言葉で表現できない場合があります。
表情の暗さ、落ち着かない、できていた日常動作が指示されないと出来ないなどの様子がみられることがあります。
知的障害が原因で周囲の人から見下されたり、遊びの輪に入れず仲間外れにされたりなど、社会との関わりに困難さを感じる方がいます。
社会との関わりが持ちにくいことで生じるストレス・孤独感・不安が、うつ状態を悪化させることがあります。
療育手帳と精神障害者福祉手帳は併用して取得できるのか
知的障害と精神障害を併発している場合、精神障害者福祉手帳と療育手帳は併用して取得できるのか疑問になると思います。
結論として、療育手帳と精神障害者福祉手帳は併用して取得が可能です。
ここでは精神障害者福祉手帳が対象になる疾患と、メリットについてお伝えします。
精神障害者福祉手帳の対象疾患
精神障害者福祉手帳の対象となるのは、精神疾患によって長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある方です。
対象疾患は全ての精神疾患で以下のようなものが含まれます。
- 統合失調症
- うつ病やそううつ病などの気分障害
- てんかん
- 薬物依存症
- 発達障害
- 高次脳機能障害
- そのほかの精神疾患(ストレス関連障害など)
精神障害者福祉手帳の取得には、精神障害の初診から6か月以上経過していることが必要です。
精神障害者福祉手帳取得のメリット
自立支援医療による医療費助成、障害福祉サービスは手帳の有無にかかわらず受けられますが、精神障害者福祉手帳を持つことで様々なサービスが受けられます。
具体的にはNHKなどの公共料金の割引、税金の免除や減免などです。
地域によっては、公共交通機関の運賃割引、手当の支給、公営住宅の優先入居が受けられる場合もあります。
参考:精神障害者福祉手帳|治療や生活へのサポート|メンタルヘルス|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
中度知的障害・併発疾患ともに早期からの支援が重要
中度知的障害・発達障害などの併発疾患は、早期からの適切な支援が重要です。
早期からの適切な支援は、中度知的障害者の出来ることを増やし長所を伸ばすことができます。
適切な支援を受けられることで安心感が得られ、出来ることが増えて自信に繋がるといった面でも効果的です。
将来的には、個々の得意なことを活かし就労を目指すことも可能になります。
中度知的障害を持つ方が就労を目指す際は、専門機関での就労支援を利用することをおすすめします。
障がいへの専門的な知識・技術があるスタッフのサポートを受けることで、自分に合った仕事を探すことができます。
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