近年、仕事や生活をする上での生きづらさや困り感があり、大人になってからADHDの検査を受けるケースが増えています。
検査の結果自分がADHDだったと分かり、今後どのように向き合っていくべきかお悩みの方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、大人のADHDが治療できるのかどうかを紹介します。
現時点で有効とされている治療法や改善法もお伝えするので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事はstand.fmで配信しています。
ぜひお聴きください。
大人のADHDとは
ADHDとは、注意欠如・多動症のことを指す発達障害の概念の一種です。
不注意と多動・衝動性のどちらか、または両方が頻繁かつ強く認められることが特徴です。
たとえば不注意に関しては、活動に集中できないことや、気が散りやすいこと、物を無くしやすいといった特徴があります。
多動・衝動性に関しては、じっとしていられないことや、静かに待てないことなどが特徴とされます。
一般的に学齢期の子どもの3~7%がADHDと推定されており、子ども特有のものだと考えられがちです。
しかし、子どもの頃にADHDと診断された人の内50%程度はその後も症状が継続するといわれています。
また、成人後にADHDだと診断されるケースもあるため、子ども特有の症状と考えることは妥当ではありません。
実際に、およそ3万9,000名のADHDを含む発達障害者が雇用されているため、大人のなかにも当事者として向き合っている人が大勢いるといえるでしょう。
アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、成人のADHDが定義されるなど、大人のADHDという考え方は広まりつつあります。
大人のADHDは治るのか?
ADHDは残念ながら、2022年時点では完治はしないとされています。
ADHDは脳の機能障害が原因だと推定される先天性の障害であるため、治療をするというよりは特性として付き合っていくことが求められます。
また、ADHDが発症するメカニズム自体がまだ解明されておらず、症状を完全に克服できる治療薬や改善法というものは見つかっていないことも実態としてあります。
一方で、症状を緩和して日常生活への支障を減らすことは、現時点でも可能です。
このような症状を緩和した寛解の状態を目指すことが、大人のADHDを治療する際の基本的な方針です。
大人のADHDの治療法や改善法とは
ここからは、大人のADHDの治療法や改善法をお伝えします。
前述のとおり完治させるというよりは特性として向き合うことが求められますが、一方で症状を緩和し寛解の状態にすることは可能です。
以下の情報を参考に、専門の医療機関との連携を取りながら対策していきましょう。
方法①薬物療法
大人のADHDの治療法の軸となるのが、薬物療法です。
薬を飲むことで、ADHDの原因ではないかと考えられている脳の働きに作用して症状を緩和します。
具体的には、次の3つの治療薬を症状によって使い分けることが多いです。
コンサータ
コンサータは、ドーパミンやノルアドレナリンという脳の神経伝達物質に作用して、その働きを活性化させる薬です。
これにより、不注意や多動・衝動性を軽減することができるとされています。
ADHDの方のなかでも特に覚醒の度合いが低く、ぼーっとしてしまう不注意の症状が強く出ている方に有効です。
多くのことに注意が向いてしまう多動性にも一定の効果があるとされます。
インチュニブ
インチュニブはコンサータと比べると使用頻度が少ないものの、時折投与されることがある治療薬です。
多動・衝動性に効果があり、気が散って1つのことに集中できない傾向を改善します。
また、多動・衝動性が怒りっぽさにつながり対人関係上の課題となっているような場合には、イライラさや敏感さを抑えるインチュニブが選択されることがあります。
ストラテラ
ストラテラも、ADHDの治療に使われますが、コンサータやインチュニブとは少し異なる効果があるとされます。
多動・衝動性の軽減に効果があり、特に集中し過ぎて周りが見えなくなる「過集中」と呼ばれる症状に効果があります。
これら3つの治療薬を中心に、医師が慎重に診断をしながら治療薬を決定するのです。
方法②心理教育
薬物療法以外にも、大人のADHD患者の生きづらさを軽減するための手法にはさまざまなものがありますが、その1つが心理教育です。
心理教育とは、患者に対して障害の正しい知識や情報を心理面に配慮しながら教えることです。
これにより、障害の結果もたらされる困難に対する対処法を習得し、円滑な社会生活が営めるように試みます。
自分の努力不足といった誤った観念ではなく、ADHDという障害が原因だと正しく認識することで、客観的かつ的確な対処法を身に着けることができるようになります。
後述するその他の改善策を実施する上での土台となる大切な手法です。
方法③環境調整
環境調整も、大人のADHD患者の生きづらさを緩和するため主要な手法です。
環境調整とは、ADHDを含む心の病を持つ人が円滑な社会生活を送られるように、関係者とのあいだで情報提供や調整を図ることです。
たとえば社会制度や福祉制度の活用や、職場の関係者と仕事内容や仕事量の調整ができないかの交渉を行います。
精神保健福祉士と連携して生活環境を整えることや、患者本人と産業医、産業カウンセラーが連携を行い、家族や上司に対する心理教育を行うことが環境調整の具体的方策です。
方法④心理療法
ADHDに起因する生きづらさや困り感の軽減のため、心理療法も取り入れられます。
主に活用されるのは、自分の思考や行動のクセを把握し、適切なものに整えていく「認知行動療法」です。
認知とは物事の捉え方のことであり、認知の在り方は思考や行動が影響を及ぼします。
もしこの認知にゆがみが生じていると、思考や行動にもかたよりや不都合が生じてしまい、生きづらさや困り感の原因になってしまうのです。
認知行動療法によって、問題の原因となる認知のゆがみを自覚することで、ADHDの特性が原因となる問題の解決やストレスの軽減につなげることが期待できます。
方法⑤ソーシャルスキル・トレーニング
薬物療法や心理療法と比較すると間接的な手法ですが、ソーシャルスキル・トレーニングが困り感の緩和に役立つことがあります。
ソーシャルスキル・トレーニングとは、対人関係における目標を達成するために、適切な行動をとることを目指すための訓練法です。
身振り手振りや、声の大きさや話す速度など、かなり具体的な内容を掘り下げて改善していきます。
または、「どういった受け答えだと相手を不快にしないか」というテーマをもとに考えて改善をはかる、思考に関するプログラムも含まれます。
ADHDの不注意や多動・衝動性とコミュニケーション能力不足が結び付くと、対人関係が悪化することがあるため、それを避けるために重要な手法です。
方法⑥アンガーマネジメント
ADHDの多動・衝動性が怒りっぽさと結びついて、対人関係上の不都合をもたらすことがあります。
強いストレスから発生するうつ病や、離職などの二次被害につながるおそれがある問題ですが、これを軽減するために有効な手法がアンガーマネジメントです。
怒りの感情と上手に付き合う手法や思考法を学び、怒りの感情を適切に表現することを目指します。
怒る必要のない場面では怒らずに済むようにして、一方スポーツのような怒りがモチベーションにつながるような場面では適切に怒りを活用できるようになることが目標です。
方法⑦マインドフルネス
マインドフルネスとは、過去の失敗や未来の不安にとらわれず「今ここ」の状態に集中している精神状態のことで、そのような境地を目指す瞑想法のことも指します。
瞑想をすることで脳の活性化やストレス軽減などの効果があるとされているので、ストレスをケアするために取り入れてみてもよいでしょう。
大人のADHDは薬物療法と心理療法で緩和しよう
今回は大人のADHDの治療法や改善法を紹介しました。
ADHDを完治させる治療法は残念ながらまだありませんが、適切な治療法や改善法に取り組むことで緩和をすることは十分可能です。
生きづらさや困り感が軽減することは大きな成果なので、少しずつADHDと向き合っていきましょう。
ケイエスガードでは大人のADHDの方の就労移行支援を行っています。
あなたの状況と気持ちに合わせた充実したサポートを提供していますので、どうぞお気軽にご相談ください。